二人の女性が忘れられない

・50代の頃のこと。

毎朝東海道線で通勤していたのだが、東京駅に着いて電車を降り、他の乗客と共にホームをゾロゾロと階段の方へ歩いていると、人の流れとは正反対に、前方から30歳くらいのOLのような女性がときどき歩いて来た。

 

その女性は肩を怒らせながら歩き、前から来る沢山の人達をよけないどころか、むしろ自分の方から体当たりするように寄って行って、かなりの人に肩をぶつけていた。

 

ぶつけられた中年サラリーマンの多くは「は~?、なんだこのやろー」という目つきでその女性を睨みつけていた。

一方、若いサラリーマンの反応はというと「えっ、なに、この人?」という感じだった。

ちなみに、私は若くなかったが若者と同じように「えっ、なに、この人?」、と思った。

 

その女性を見掛けるたびに、前から来る男性に肩をぶつけて歩いていたが、一体どういう理由でそんなことをするのか全く分からなかった。

 

・40代の休日の昼間。

何の用事で行ったのか忘れたが、横浜駅で電車を降りると、20代後半の女性がホームにしゃがみ込んで、顔を手で覆いながらさめざめと泣いていた。

抑え切れないのか、ときどき嗚咽も聞こえていた。

人が人前でこれほどまでに深刻に泣いているのをそのとき初めて見て、とても可哀そうに思った。

 

愛する恋人に別れを告げられたのだろうか、それとも身内に不幸があったのだろうか。

 

泣いている理由を一瞬考えたが分かるはずもなく、大丈夫ですかと声を掛けようかどうしようかとやはり一瞬考えたが、余りにも深刻そうに泣いている人に全くの他人が声を掛けるのがはばかれたので、結局何もせずに立ち去った。

 

この2つの出来事は随分年月が経っているのになぜか今でもときどき思い出してしまう。